ヘラブナ釣りの夜釣り(ナイター)とリチウム電池

現在では、ノートパソコンやデジタルカメラ用電池、携帯電話やスマートホン、そして車に至るまで幅広く使われているリチウム電池。

ナショナル製のピン型リチウム電池。長いタイプと短いタイプがあります。写真は長いタイプ

もう当たり前の言葉のようになっていますが、ヘラブナ釣り師、それもナイター(夜釣り)をする方にとっては、「リチウム」という言葉は普通の人よりはるかに前から馴染みのある言葉でした。(正確には、リチウム電池とリチウムイオン電池は異なりますが、リチウムというそれまでほとんど聞いた事のない単語としてという意味です)

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「パナソニック」ブランドのヘラブナ用電気ウキが登場

昭和51年(1976年)の事です。「ナショナル」から、ピン型リチウム電池が発売されました。

リチウム電池自体は、このピン型電池の前1970年を少し過ぎた頃に時計用の電池として使われたのがごく初期の段階ようです。

その数年後に登場したのが、ピン型のリチウム電池というわけです。

単3型電池との比較。かなり小さいのが分かると思います。たしか、直径は4mmだったと思います。単3型の電圧は1.5vですが、リチウム電池の電圧は3vです

これは管理人の推測ですが、「電池は出来た」、しかし「ピン型電池を使う製品は世の中にまったく無し」。そこで考えます。「何かピン型電池を使う電気製品を開発しよう」。

で、たどり着いたのが「電気ウキ」というわけです。大大大メーカーのナショナルですから、当然社内にはありとあらゆる趣味を持つ人がいたと思います。

昭和50年ごろといえば、まだまだヘラブナ釣りが元気な時で、相模湖のナイターなどは大晦日から元旦にかけても数十人が竿を振っていました。

ハッキリとは記憶がありませんが、河口湖などもボートでのナイターをやっていたと思います。

かくして生まれたのが「National」ブランドのプラスチック製のヘラブナ電気ウキです。


「National」ブランドの電気ウキ。特大と大大です。ナショナルには、釣り好きの人がいたのでしょうか。電動ハリ結び機などもありました

ナイターの常識を変えた電気ウキ

その頃のヘラブナ釣りのナイターでは、普通のヘラブナ釣り用ウキを使い、そのウキに強力な懐中電灯の光を当てるというのが一般的でした。ダイワなどからも、たしか単一乾電池が6本入り、光の角度を調節できるナイター用のランタンが製品として出ていたと思います。

対岸に釣り人が入ると、お互いにライトの光軸をずらすのがナイターでは暗黙のルールでした。

また、一晩に10本以上も電池を使いその電池を捨てて行く釣り人が多く、問題になったりもしました。

相模湖では船宿が、自動車用のバッテリーを改造して一晩持つナイター用ライトを貸し出したりしていました。

そこにプラスチックボディでボテッとした「いかにも感度の悪そうな」電気ウキが登場したわけですから、当初はほとんどの人が「あんなの使えないよ」といった受け止めかたでした。

オマケに初期型のウキは、発光ダイオードで光るところが1点しかなく、振り込んで「おかしいな、ぜんぜんウキが動かないな」と思っているとウキは浅場にあり横に寝ていた、などという事が起こりました。何しろ暗いので、1点では立っていても寝ていてもわからないのです。

その後2点発光になり、とりあえずはなんとか使えるウキになりました。

ナイター用のライトも当初は、なるべく明るい光でウキをライトで照らしていたのですが、いつの間にか「ライトを暗くした方が釣れる」という釣り人が現れるようになりました。

管理人自体が、「明るい光は釣れない」と確信したのは、相模湖上流の上野原で大きなハタキに遭遇した時です。

ご存知のように、ハタキではヘラブナが尻尾で葦やゴミをバシャバシャバシャとすごい音を立てて叩きます。

そこら中でその音が聞こえるのです。ところが、光の当たっているところでは、そのハタキが極端に少ないのです。

多くの釣り人が、そのことに気がつくようになりなるべく明かりを暗くして、ウキのトップに蛍光塗料を塗ったりするようになりました。

その頃から、電気ウキを使うヘラブナ釣り人が増え始め、しばらくするとウキをライトで照らす釣り人がほとんどいなくなって来ました。

相模湖・五宝亭で販売されていた、ボディがクジャク羽根3枚合わせの電気ウキ
電池はウキの足の部分に差し込んで装着します

ナショナルの電気ウキを分解してボディをクジャクの羽根に替え、発光ダイオードが4個も5個も光るタイプや光ファイバーを使いウキのトップ全体が光るような電気ウキも出現しました。

リチウム電池と発光ダイオードが、ヘラブナ釣りの夜釣りを大きく変えて行きました。

光とヘラブナについて

ライトを点けると本当にヘラブナが釣れないのかという疑問があり、当時はナイターにハマっていたので、けっこう真剣にいろいろと調べてみました。

インターネットどころか、まだまともに個人が使えるパソコンなどもない時代だったので、図書館に通って役に立ちそうな本を読んでみました。

その中から、いくつか記憶に残っている事を書いておこうと思います。

まず、人間の目に見える光ですが光は波長で現し、単位はnm(ナノメートル)です。

個人により多少の違いはあるようですが、およそ目に見える光の波長は、紫の360nmあたりから赤の830nm付近までです。

360nm以下の波長の短い光を紫外線、830nmより長い波長の光を赤外線といい、人間の目では見えません。

読んだ本の中に面白い実験の話があり、大きな水槽に7色のスポットライトを当て、光の部屋を作ります。すると、ナマズやウナギなどの夜行性の魚は赤い色の部屋を選ぶのだそうです。

魚によって敏感な色も異なり、鮭鱒類では緑から黄色になる580nmあたりへの感度が高いようです。

さてさてさらに読み進むと、「これだ!」というような記述に出会いました。

簡単に言うと「海はなぜ青い」という話なのですが、短い波長の光、つまり青や紫は水中を1m進んだ時に3%しか吸収されません。これに対し、700nmほどの赤い光は水中を1m進むと70%ほどが吸収されてしまうのだそうです。

最初の1mで70%が吸収され、さらに1m進めばまた70%が吸収されるのですから光の影響はごく少ないと考えられます。

そこでさっそく相模湖で実践してみました。赤いセロハン紙を2枚重ねにして、赤い光でウキを照らします。多少の見づらさはあるものの、トップははっきり見えます。

当時はバッテリーを節約するために、ウキを照らす時だけ点けるので、点けたり消したりしています。

すると2回目だった思いますが、なんとなく全体にモヤががかったような夜でした。こういう日は釣れます。

遠くで話す人の声が聞こえてきました。

「おい、あれなんだよ。あっちでボーッと光ってる赤いの」「あ、消えた」「なんだよ、気味悪いな」「あ、また光ってるぞ」

というような会話です。

私自身は、ナイターにも慣れていたので1人で釣るのが好きでしたが、慣れないうちはなんとなく暗いのが恐ろしいのもよくわかります。

見てる側に立ってみると、遠くでボーッと赤い光が点き、それが消えてはまた現れるのでは、何か恐ろしい想像をするのも当たり前かもしれませんね。

その後、私も電気ウキ派になりとうとう赤い光でヘラブナを釣る事はできませんでした。